労災保険
2018/05/20
必読!一人親方として働く際の「リスク」と対策について
一人親方として仕事を進めていく上で、労災事故が発生する・工事の仕事がなくなる・請負の単価が下がる等の様々なリスクが潜んでいます。起こりうる全てのリスクを回避し続けることは非常に難しいのが現実ですが、そのリスクが何かを先に予測し、出来る範囲での対策をしていれば、被害を最小限にとどめることはできます。人間は予測できないリスクを過大評価してしまう傾向にある、ということも行動経済学の分野で明らかになっているため、事前にリスクを管理し軽減することで、精神的にも仕事に集中することができます。今回はその起こりうる「リスク」に対して、どのような対策ができるのかを考えていきたいと思います。
「リスク」には管理できるものとできないものがある
「リスク」というと何となく危険なことというイメージで考えがちですが、少し専門的な言い方をすると「リスク」と「不確実性」という言葉に分ける事ができます。これは経済学で主に使われる用語なので何となく仕事や生活をしていく中で遭遇するであろう事故や問題のことというような認識かもしれませんが、本来は異なるものです。
リスク=起こりうる事が分かっていて、それが起きる確率も事前に分かっているもの
※例:サイコロの目を当てる、労災事故、交通事故
不確実性=起こりうる事が分かっているが、それが起きる確率が事前に分からないもの
※例:震災や災害、金融危機、会社の経営状況の変動、請負金額の変動
少し難しい言葉の表現ですが、明確に異なるのは事前に「起こる確率が分かるか、分からないか」です。一般的には、過去のデータなどを用いて将来起こることが予測されている場合には、リスクという用語が使用され、何が起こるのかさえ予測できない場合には、不確実性という用語が使用されています。
労災事故や交通事故などは過去のデータを蓄積していくことで予測する確率の精度は上がっていきますが、地球規模で起こる災害等は影響する要因が多すぎることもあり、確率を予測するのは非常に難しくなっています。(事故や災害も詳細なデータ分析が進むことにより、不確実性からリスクになりつつあり、スーパーコンピュータや人工知能の発展により予測する技術は飛躍的に向上しています。)
特に先行きを見通すことが極めて困難で、将来どのような道に進むべきなのか?といった指針となるような羅針盤も存在しない今の時代は、まさに『不確実性』という言葉が当てはまります。
一人親方の立場を認識する
一人親方は建設建築企業の社員ではなく、基本的に独立した事業者・社長として企業と交渉する立場と見なされるので、どんな危険に対しても全てが「自己責任」で片付けられてしまいます。
例えば、大雨などで請け負った工事が予定通り終わらなかったとしても、労働契約ではないので仕事を発注した会社は残業代を支払う必要がありませんし、万が一大怪我をして働けない状態になっても、自分で労災に入っていない限り誰も補償してくれません。企業で働く労動者なら、たとえ仕事が無い時でも会社から最低限の給料を受け取ることができますが、一人親方は業務請負契約なので、仕事を請け負わなければお金は一切入りません。雇う側にしてみれば、仕事があるときだけお金を払って雇えばいいという、リスク回避という側面もあるためムダなお金がかからず好都合ですが、一人親方の方は収入が不安定で、保険に入ることすら難しい事も多いようです。
【一人親方のメリット】
多くの従業員を雇って仕事をする場合、給料という人件費が掛かってきますが、建設建築業では仕事の無い時期とある時期が極端で、毎月規定の給料を払い続けるのは困難な親方も多くいます。その場合でも一人親方は従業員を雇わず、仕事の受注から実際の納品まで、自分一人で完結できるので、自由に仕事ができて収入もやった分は全て自分のものであるというメリットがあります。
【一人親方のデメリット】
基本的に一人親方は労災保険の適用範囲には含まれないため、一人親方労災保険といった特別な制度に加入していない場合、法令を遵守(コンプライアンス)する企業などからは仕事が請けれないといったことや、仕事量が多い場合に仕事を請けきれないというデメリットが存在します。
労働基準法では元請け企業は「使用人」という位置づけで、すべての下請に対して「指揮・管理・監督」をする責任と義務があり、現場のすべての下請負人に対して災害補償の義務が課せられます。つまり、すべての下請を労災から守る「安全配慮義務」が発生するということです。しかし、安全配慮義務の下に管理をしているはずなのに、建設建築業界の死亡災害の件数は、全業種の中でも死亡事故が依然として多い状況で、死亡事故となれば残された遺族は経済的な生活不安も発生し、精神的にも喪失感に襲われます。死亡事故の原因を究明していくうちに、過酷な労働条件で働かされていた事実や、直接雇用のあった会社や元請け企業の遺族対応が誠実さを欠いていたとしたら、それは遺族の不安や怒りとなり労災訴訟へと発展していくことも想定され、実際にニュースなどでも多くが話題になっているので、元請け企業のみでなく、個々で出来る範囲の危険対策が必要です。
重要なのは、起こりうるリスクの対策をすること
一人親方として仕事をしていく上で何が危険なのかを全て予測するとキリがありませんが、コレはやった方が良いという王道の対応策を紹介しておきます。
対応策1:決められたガイドラインを守る
・労働基準法や労働安全衛生法、建設業法などの「法令遵守」の徹底
(勝手な解釈や、仲間内で一緒なら大丈夫などという考えはやめる)
・安全衛生管理体制の確立
(事故防止システム導入、リスクの評価、メンタルヘルスの実施など)
・末端の業者までの安全教育の徹底
(継続的な意思の疎通を図る)
対応策2:労災保険の加入
労災事故で死亡・ケガをした場合、被害や損失額は最低でも数十~数百万円以上になることが想定されます。また、被害者と直接雇用のある下請けにとどまらず元請け企業にも責任追求がおよぶことを前提にすると、加入は必須です。保険加入のポイントとしては、以下を検討しましょう。
1、想定される最悪の損害賠償請求に耐えられるか
2、働けなくなった期間の生活を補償できるか(日や月でいくら必要か)
3、毎月の掛け金は妥当か(毎月数千円が一般的)
4、保険の内容確認が容易か
対応策3:専門職の仲間を作る
建設建築業は以前に比べると解消してきていますが、「労働集約型」で様々な種類の技 術や職人の数を必要とします。自分一人だけでできる仕事だけで安定した収入を得ることはとても難しい現実もあり、自分の専門外の技術を補ってくれる仲間と協力し合うことで仕事の幅や収入の増加にも繋がり、結果としてリスク対策になります。
一人親方は「経営者」という表現を用いましたが、経営という観点で見た時に、自分一人で全てを完結できる技術を身につけることよりも、仲間を巻き込んでお互いに補い合うことが、変化のスピードや多様な価値観の現代を生き抜くカギとなるのかもしれません。